@article{oai:nichibun.repo.nii.ac.jp:00000793, author = {朱, 捷}, journal = {日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要}, month = {Dec}, note = {本稿では、日本人の語感において嗅覚がいかに格別な地位を占めているかを論じる。  京都の染色や日本刺繍、日本画、陶芸などでは今日でも、花の雄蘂・雌蘂その場所のことを「におい」と呼ぶ。これは仏教経典に見える、生命誕生に決定的な役割をはたす匂いの神ガンダルヴァの話を想起させる。どの辞書にも載らないこの使い方は、生命のほのかな、原初的な躍動を嗅覚でとらえる「にほひ」ということばの、最下層の面影を残しているように思われる。  語源的に、「にほひ」は神秘的な生命力を秘める霊的物質水銀とのつながりを示唆する。「二」は水銀の原鉱石の丹砂を指し、「ニホ」は丹砂の産出を意味する「ニフ」や水銀の女神の名前ニホツヒメと明らかに接点をもつ。「にほひ」ということばには視覚と嗅覚が重なり合っている。それは、血のように鮮やかな水銀朱の色を視覚的に表現するいっぽう、視覚ではとらえきれない、丹砂という鉱石の奥をうねり脈打つ生命力の神秘性を嗅覚的にとらえていることを示している。  内在的な生命力のうねりを嗅覚的に表現する「にほひ」の用例は、古典文学に多く見られる。源氏物語ではそれは男女の内在的な美的性的魅力をも意味する。魅惑的なフェロモンのような体臭をもちながら、薫がもっとも恐れていたのは「にほひ」のない男と呼ばれることだった。  日本語では、絵画に与えるもっとも高い評価にも、「声のにほひ」などのように、聴覚のなかのもっとも美しい音声を表現するのにも、「にほひ」が使われる。そして「にほひ」は芭蕉の美学理念の重要なキーワードでもある。日本人の嗅覚は、他の感覚ではとらえきれない物事の奥に秘める生命力や人の心を打つものに対してとくに繊細である。対照的に、中国人の語感において聴覚が格別的で、響きを意味する「韵」が他の感覚を凌駕するキーワードとなることが多い。しかも興味深いことに、「にほひ」の漢字表記「匂」は、「韵」の右半分を取って造られた和製漢字である。}, pages = {69--91}, title = {「にほひ」にみる日本人の嗅覚}, volume = {15}, year = {1996} }